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2007.10.29. 開設  日々徒然と二次創作、オリジナルなどを書いていこうかと。  コメント大歓迎、荒らし厳禁。 詳しくは説明にて。
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千夢一夜の177777を踏んでリクエストして戴いた作品です。

(BLEACH/サイト様設定/一護総受け)




+ + + + + + + + + +


注:この話は母一護設定でお読みください。





春の日差しに誰もがうとうととまどろむ初春のある日。桜を見に行くついでに用事を済ませてくる、と書置きを残して現世に出かけた一護。てっきりその日のうちに帰ってくると思っていた子供達は、一晩経っても帰らない母親に、ふと心配になった。

「一度、探しに行ったほうがいいのではないだろうか?」
「放っておけ。あやつも大人じゃ。一人で大抵のことは解決するじゃろう」
「だが、母上は身体が弱い」
「何を言うても無駄じゃ。さっさと仕事に戻れ」

総隊長に言われて渋々仕事に戻ったものの、皆心配で何も手につかず、連絡だけでも、と浦原が通信を入れたところ、反応がない。故障か、と念のためにつけておいた義骸の発信機で居場所を調べたが、それもまた反応がない。

「……一護隊長、やっぱり、行方不明になったんじゃ……」

信じたくないがそう思わざるを得ない。振り返った局員は、飛んできた拳が真横を通り過ぎ、ひぃっ、と目を閉じる。一瞬遅れて硬い物の割れる音がした。

「すぐさま情報を洗い直して、霊圧の探知を急ぎなさい。いいですね」

何も映さない画面を素手で破壊した浦原の苛立たしげな表情と、破片で血を流した手を見比べて、局員は首がもげそうなほど縦に首を振った。


良薬


「まずいな……帰るに帰れねぇや」
「笑うところなの?」
「他にやることもねぇからなぁ……」

一護は血の滴る左肩と左足を庇うようにしてソファーに座りながらあはは、と呑気に笑った。少年は呆れたように傷口を消毒し、包帯を巻いてくれる。

「ごめんなさい、僕のせいで」
「謝らないでくれよ、咄嗟に無様な庇い方したのはこっちなんだ。それにしても、まだ小さいのに虚から人を助けようとするなんて、度胸あるな」
「僕は、滅却師だから。傷、痛みますか?」
「もう全然平気。ありがとな」

礼を言ったが、少年は傷を負ったのは自分のせいなのだから休むようにと言う。用事先に向かう途中、虚に襲われている人間を助けようとしていた彼を庇ってついた傷だ。死神に戻ってその虚を倒したところ、今度はその霊圧に惹かれてもっと強力な虚を呼び寄せてしまった。なんとか倒したものの、実際の戦闘を止められていた身体は容易く悲鳴を上げ、これ以上死神に戻ることは危険と判断して義骸に入った。
気付けば戦闘で地獄蝶はいなくなってしまい、義魂丸は最初から持って来なかった。こんなぼろぼろの状態では断界を通って帰ることが出来ない。加えて連絡手段もなく、弱っていたところを、助けた子供に家まで連れて来てもらった。
子供は滅却師の生き残りで、雨竜といった。

「あなたは死神だけど、弱いんだね」
「そうだな。虚倒して自分で血を吐いてりゃあ苦労ねぇな」
「でも、ありがとう。助けてくれて」
「どういたしまして」

一護は雨竜を膝の上に抱き上げて息を吐く。それにしてもこの子が傷つかなくて良かった、と思う。どうしても子供がいるせいか、小さな子供が傷つくのは耐えられない。
抱いている身体から感じる温もりに、まだ数日しか経っていないはずなのに、急に我が家の子供達が恋しくなった。帰ったら一番に、思いっきり抱きしめてやりたい。

一方雨竜もまた、まるで我が子を可愛がるように自分を抱きしめてくれる女性の膝の上で、今は亡き母のことを思い出していた。父と二人で暮らすようになって、温かい手や、優しい言葉に飢えていたのかもしれない。とても心地よく、彼女が死神であることも忘れ、このまま眠ってしまいたかった。
穏かな時を壊すように、玄関の扉が開く音がした。ぱっと雨竜が膝の上から飛び降りる。首を傾げた一護は、リビングに顔を出した男を見て、親しげな笑みを浮かべた。男の方はさほど不機嫌でもないようだが、僅かに意外そうに目を開いている。

「おかえり竜弦。久しぶりだな、おじゃましてるぜ」
「貴様か。なぜここにいる?子供も一緒か」
「いや、ちょっとな、俺一人で来たんだ。野暮用で」
「すんだら帰れ。貴様の子供や知り合いがこの家に押しかけてこられては迷惑だ」
「父さん!この人は僕を庇って怪我をして――」
「そんなことはその女にとっては日常茶飯事だ。お前の気に病むことではない」

冷たく言い放って自室に向かう父親の背中を見送り、気まずそうに雨竜は俯いた。温かい手がそっと頭を撫でて、彼は申し訳なさそうに顔を上げる。一護は優しい顔で気にしてねぇよ、と言ってくれた。

「竜弦は相変わらずだな」
「父さんは……死神とか、滅却師が嫌いなんだ……僕も」
「どうかな……無愛想で冷たい物言いをする奴だけど、あんまり嫌ってやるなよ。あいつもあいつで思うところがあるんだろうし。子供を嫌う親はいねぇさ。今は、まだ難しいだろうけど」
「どうして……」
「ん?」
「どうして、そんなことが言えるの?」

まるで求めた答えをようやく見つけたような目で見つめてくる少年の前にしゃがみ、一護は優しく頭を撫でて微笑んで見せた。

「俺も、親だからな」



「俺は現世に行く。二日も連絡がないなんて、おかしすぎる」
「ならぬ」
「なんでだ!」

納得のいく理由を出せ、とかなり険しい表情で詰め寄る少年に総隊長は何度目になるか分からない台詞を繰り返した。いっそテープにでも録音して流した方がいいのではないだろうか。一言一句同じ台詞ばかり吐いている気がする。

「あやつを案じておるのはお主だけではない。皆今すぐ現世に探しに行く許可を寄越せと言う。お主を許せば他の者もぞろぞろと現世に向かうじゃろう。そうなれば死神の本業はどうなる?おろそかにして、あやつが喜ぶとでも?」
「それは……」
「お主一人を例外とするわけにはいかぬ。隊長として示しもつかぬ。今捜索隊を出しておるところじゃ。しばらく大人しくしておれ、よいな」

一番隊に締め出され、冬獅郎は「畜生、あのくそ爺」と悪態をついた。隊首室の外では乱菊や雛森が待っており、どうだったかと聞いてくる。駄目だったと言えば、がくりと二人とも肩を落とした。

「どうしてあたしたちが探しに行っちゃいけないの?子供が親を心配して何が悪いの?」
「隊長副隊長が私情で職務をおろそかにするのはよくねぇんだと。くそっ、頭の固いジジイだぜ」
「困りましたね……本当に」
「初輝は?もう寝たのか?」

茜色から紺色へと移っていく山の向こうの空を眺め、まだ小さな末の妹の名を出せば、乱菊は「それが、なかなか寝付いてくれなくて……」と片方に手を当てて答える。

「最初は浮竹隊長が傍にいればなんとか寝付いてくれたんですけど、今じゃ夜泣きもすごくて……あたし達の不安が分かったんでしょうか」
「やっぱり、お母さんがいないと寂しいんだよね……みんな」

お母さん、大丈夫かなぁ?お薬飲んでないし、無茶してなきゃいいけど……。
涙ぐみながら胸を押さえて不安を口にする雛森に、冬獅郎は黙って肩を叩いて励ました。

「泣くな。俺達がしっかりしてねぇでどうするんだ。お袋は俺達を育てた女だぞ、大丈夫に決まってるだろ?」
「そうよ、そのうちあっけらかんとした顔で帰ってくるわよ」

慰めながらも、やはり不安を隠しきれずにいる十番隊主従だったが、雛森は何も言わずにただ頷いた。



二日目の夜、一護は彼女が作った食事を雨竜と口にしていた。竜弦は帰りが遅くなるらしく、息子は大抵一人で食事を取る。それはあまりに寂しいと抗議してやりたかったが、死神である自分が言っても態度を変えないのは分かっていた。不器用な男だ、と思う。

「美味いか?好みがわからねぇから適当に味付けしてみたんだけど」
「うん、美味しい……なんか、お母さんの作ってくれた料理に似てる」
「……そっか。いくらでも食っていいからな。っていっても俺が買ったわけじゃねぇけど」

まぁ、医者はかなり儲かるという話だから大丈夫だろう、と一護は一人結論を出し、嬉しそうに食事をする雨竜を見つめる。その眼差しは、愛しげで、どこか寂しい。竜弦を責めるつもりはないが、もっと分かりやすい愛情を注げないものだろうか。親の愛情を感じずに大人になるなんて、寂しすぎる。甘えられないなんて、悲しすぎる。
そんなことを考えながら、雨竜の口の端についていたソースを指ですくって舐めると、ちょっと顔を赤くした。可愛い、と感じると同時に懐かしさを覚えた。尸魂界にいる子供達の小さい頃を思い出したのだ。そして、まだ物心ついていない幼い末の娘も。

「どうしたの?僕の顔ばっかり見て、何かついてる?」
「ああ、いや。あいつら今頃ちゃんと飯食って寝てるかなーって、」
「あいつらって、あなたの子供?まだ小さいの?」

尋ねられて一護はちょっと答えに困った。歳から言えば一人を除けば皆この子の父より年上だろう。見た目は雨竜と変わらない者もいるにはいるが。きっと本人に言えば怒るだろう。

「いや、もうほとんどみんな大人だ。でも、まだ手のかかる子供だよ。小さなことで喧嘩はするわ、家は壊すわ……旦那もあんまり身体丈夫じゃないし、心配だなー」
「大人なのに子供なの?」

おかしな子供達だね。
不思議そうに言う雨竜に、一護は痛む手足を擦りながら、むしろ愛しそうに「ああ、本当にな」と頷いた。

「でも、大事な子供なんだ。俺にとっては、かけがえのない宝だよ」
「……そう」
「親として、俺はあいつらに生きているうちに、できることは何でもしてやりたい。だから、帰らなきゃいけないんだけどな……」

地獄蝶もいねぇし、義魂丸は忘れちまったし、連絡手段もねぇし、義骸は傷つけちまったし、用事もまだ済ませてねぇし、弱ったな……。

「ああ、帰ったらまたどやされる……」
「大丈夫なの?今頃その人達は大騒ぎしてるんじゃない?」
「あはは、どうかなぁ?一応みんないざという時は落ち着いて対処できるだろ。それに、俺が何かとやらかすのはいつものことだし」
「……ほんとかなぁ」

雨竜は疑わしそうに首を傾げながらも、自分も手伝って作った鯖の味噌煮をお替りした。



翌朝、尸魂界では……落ち着いた対処どころか、隊長副隊長達が溜まりに溜まった不安や鬱憤を吐き出しまくっていた。平隊員達は霊圧に当てられるのを恐れてその近くには寄り付かない。

「なんで義骸に発信機つけとかんかったんや!?その頭は飾りか!?しばくでホンマに!」
「お母さんが自分で取ったんだろう。あの人はそういうの嫌うからね」
「私が密かにつけていた護衛も撒いてしまわれたようだしな……捜索隊も未だ何の情報も入れては来ない」

なんということだ、嘆かわしい、と砕蜂が歯噛みする。昨日といい、一昨日といい、母を案じてろくに眠れなかったため、目の下にはくっきりと隈ができていた。誰の声にも疲労の色が濃い。

「浦原君、どうにか霊圧を探知できないのかい?彼女の霊圧ぐらいともなれば、隠すのも限度があるだろう?」
「難しいですね……あの義骸は特注ですから」

技術開発局長がお手上げだ、と呟けば、現世に捜索に行くのを止められ、今まで黙って様子を見ていた冬獅郎が、耐え切れないように忌々しげに声を上げる。

「くそっ!刑軍も技術開発局も、重要な時に役にたたねぇな!」
「そういうあんただって役立たずでしょう!?天才児が聞いて呆れますよ!」
「なんだと、このマザコンイカレ科学者が!!」
「あんたにだけはマザコン呼ばわりされたくないですね!」
「はいはい、そこまでになさってくださいね。ここにいるのはみなさん無能で役に立たない方々ばかりなのですから」

お互いに罵り合っても無益でしょう?
穏かな顔で間に入ったかと思えば、さらりと毒を吐く卯ノ花。彼女も相当母のことを案じているらしいことが発言の内容からも窺える。

「たった今、総隊長から我々が直々に母様を迎えに行く許可が下ろされました」
「ほんとか!?」
「ええ。現世における母様の魂魄にかかる負担と、持って行かれた常備薬の量から考えて、できる限り早く連れ戻さなければ大変なことになる、と繰り返し申し上げましたら、ようやく首を縦に振ってくださいましたよ。初輝のこともありますしね」
「それは……やはりのんびりしてはいられない、ということだな」

現世に何の用があって一人で向かったのかは知らないが、あちらではただでさえ霊力に制限がかかり、負担が生じる。それを知らぬ母ではないだろう。

「本当に、一体何の用があって一人で向かったのか……困ったものじゃ」

夜一の呟きはその場の全員の心情を代弁していた。



いつも飲んでいた薬が切れ、慣れない空気や苦手な雨のせいもあってか、三日目に一護は急激に体調に異変をきたしていた。ぐったりと布団に横になった顔は青白く、呼吸も苦しそうだ。雨竜は不安のあまり父に電話したが、放っておけと言われただけ。こちらの薬は効かないという。何も出来ずに泣きそうな顔で枕元に座っていた。

「大丈夫……?」
「ああ、ちょっと疲れただけだ……心配すんな、結構俺はしぶといんだ。それより、雨竜は学校だろう?早く行かないと遅刻するんじゃねぇか?」
「でも……」
「滅却師の修行も大事だけど、勉強も大事だ。友達を作るのも、人との関わりを学ぶのも。そうやって人を守りたいって心が育つんだから。な?」

行って来い、留守番してるから。
笑顔でそう言われ、後ろ髪を引かれながらも雨竜は渋々学校へと向かった。ざあざあと降りしきる雨を耳にしながら一護は咳をした。胸が焼けるように痛む。ふと見れば、口元に当てていた手に血が滲んでいた。

「まずいな……この辺担当の死神でもいればなんとかなるんだろうけど……」

生憎一護は現世の担当の死神を知らなかった。いや、きっと知っていても、今の状態では探すことさえ難しいだろう。

「頼りにならねぇ身体……役立たずだな……」

自嘲の笑みを浮かべ、血を拭って目を閉じた。雨の音が不安を掻き立てる。もう子供にも、夫にも会えないのではないか。一人現世で消えてゆくのではないか。そんな不安の中、一護はいつの間にかうとうととしていた。


どれほど経ったのか。すぐ近くに死神の気配を感じ、目を開ける。と、目の前に見えたのはずいぶんと懐かしい顔だった。

「一護、大丈夫か?」
「親、父……?」

なんでここに……ってか、いつの間に入ってきたんだ?
ぼんやりとしながらも起き上がろうとする一護を、男は手で押し留めた。背中に手を当てて抱き起こし、口元に白湯に溶かした薬を持っていって飲ませると、弱った身体を再び布団に戻す。見つめる目は、どこか悲しい。

「現世に一人で出てくるなんて、無茶しやがる……」
「生憎、そういう性格なんだよ……」
「どっちに似たんだか……」

苦笑する男に一護も笑う。彼、黒崎一心は一護の父だった。こうして久方ぶりに会っても、やはりそれは変わらない、と当たり前のことを思う。

「……竜弦が、呼んだのか?」
「ああ。尸魂界からも連絡があった。お前の娘がいい年して迷子だってな」

冗談めかす男に、一護は笑おうとして咳き込んだ。やはりこのままでは回復も難しいのだろうか。一心の娘を見る表情が硬くなる。

「一護……俺がついていてやりゃあよかったのかもな」
「はっ、何言ってんだよ親父。あんたは母さんと、自分の娘を守るって役目があるだろ?」
「お前だって娘だ。真咲と、俺の子供だ」
「だけど、もう母親だよ。今は頼りになる夫も、子供達もいる。言ったろ?去年子供産んだって。ちょっと肺の弱い子なんだけど可愛くてさ、一度写真を見せたくて来たんだけど……」

ぜいぜい、と苦しそうに呼吸をする娘にもういい、と一心は手を握りしめる。話をするだけでずいぶんと体力の消耗が激しい。義骸の修復は出来ても魂魄の治療は現世では無理だろう。先程応急処置程度の薬は飲ませたが、それでもどこまで誤魔化せるか……。

「なんでさっさと俺の所に来なかった?こうなることは分かってたろう」
「ちょっと、道草してた……」
「ったく……手のかかる娘だぜ。真咲に似たのは顔だけか」

嘆くように言いながらも、瞳の奥に滲む後悔の色を一護は見逃さなかった。一護が一人前になったのと同時に、一護を庇って亡くなった妻の生まれ変わった魂魄を探して現世に出た父を恨んではいない。むしろ、すぐにそうしたかっただろうに、一護を案じて先延ばしにしたことを感謝していた。だから、一護は父親の手をぎゅっと力を込めて握り、迷惑かけてごめん、と呟いた。

「しばらく大人しく寝てろ。すぐに迎えを呼んでやる」

久しぶりに頭を撫でてくれた手は、記憶の中と変わらず大きく、無骨で、温かかった。



一心が一護の居場所を尸魂界に連絡すると、すぐさま迎えが来た。卯ノ花と浮竹、阿散井、そしてルキアの四人である。全員で迎えに行くことはできず、くじ引きと平和的な話し合いで決められたらしい。

「母様……ご無事で何よりです」
「ごめんな、迷惑かけて……」
「迷惑なんかじゃねぇよ。お袋が無事なら、それでいいじゃねぇか」
「とにかくすぐにあちらに戻ろう。慣れた環境の方が楽だろうし、しばらくは入院した方がよさそうだ」
「ええ、そうですね」

浮竹とルキアの言葉に、ふらついてまともに歩けない母親を抱き上げようとした恋次だったが、「ちょっと待ってくれ」と本人に言われて振り返る。

「どうしたんだ?お袋。まだ何か用事があんのか?」
「我々にできることなら代わりにいたします。ですから、今は……」
「そうじゃ、なくてさ……」

挨拶しとこうと思って、世話になった人に。
妻の言葉に首を傾げる浮竹の視界に、ちょうど帰ってきた子供が入ってきた。急いで帰ってきたのか、息を切らせ、わずかに濡れた少年に、一護は苦笑して手招きする。周囲の見知らぬ大人に途惑いながらも歩いて来た雨竜をタオルで拭いてやりながら、一護は「ありがとう」と抱きしめて礼を言った。

「俺、帰らなきゃ。迎えが来たから」
「この人たちが、あなたの子供……?」
「と、旦那さん」
「一護が世話になったそうだな、ありがとう」

浮竹に笑いかけられ、雨竜は俯く。もとはといえば自分を庇って具合を悪くしたようなものだ。それに、なんだか一護が行ってしまうのがすごく残念な気がした。寂しい、というのかもしれない。とにかく、心は晴れなかった。

「雨竜、いろいろ辛いこと、あるだろうけど、自分の守りたいものを守れるような大人になってくれな。お前なら、大丈夫だろうけど」
「……はい」
「よし、いい返事だ」

にっこり笑って頭を撫でた手が離れていくのを雨竜は名残惜しく思った。けれど、引き止めてはいけないのだろう、と分かっていた。この人にはこの人の守るべきもの、大事なものがあって、これからそれらのいる場所に帰るのだから。
恋次が一護を抱き上げ、浮竹が尸魂界への門を開く。「では、まいりましょうか」と卯ノ花の声がして、五人は黒い蝶とともに門の向こうへと消えていった。



帰ってから一護はあまりの衰弱振りにたっぷりと心配をかけまくり、いくらか回復した後でこってりと絞られた。たまには良い薬だ、と夜一や砕蜂も庇いはしなかった。

「全く……これからは絶対に居場所が分かるように発信機を常に着けさせていただきますからね」
「え……マジで?」
「マジで」
「仕方ねぇだろ。こいつら全員泣きそうな顔してたんだからよ」
「剣ちゃんも心配で寝られなかったよねー?」
「黙れやちる!!」
「黙るのは皆さんですよ。何を病室で騒いでいるのですか」

卯ノ花の鶴の一声で賑やかな声はぴたりと止んだ。浮竹が娘をあやしながら小さく笑って妻に尋ねる。

「そういえば、あっちから持って帰ってきたものがあったが、あれはなんなんだ?薬か?」
「ああ、肺に効くって評判の奴。浮竹さんと初輝にどうかなって。もう今ではなくなってたんだけどさ、あっちにはまだ残ってたみたいだ」
「死神に効くような薬があっちにあるとは、意外だな」

感心したような浮竹の言葉に、「本当に効くのは親心だよ」と一護はこっそりと呟いていた。



>母一護現世で行方不明(シリアス)……になっているのか疑問が多く残るところです。とにかく小さい雨竜と一心を出したかったんです、書いている中で。鎖終様、もしよろしければお受け取りください。本当に、長らくお待たせして申し訳ありませんでした! 1



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プロフィール
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終夜
性別:
女性
職業:
学生
趣味:
ネット、読書、写真
自己紹介:
腐のつく属性。でもノーマルも大好き。

成人者の高卒者。
最高学歴は専門学校です

熱しやすく、冷めにくい。むしろ、いつも煙はでている(笑)
性格は社会的には真面目(というより面倒見がいいらしい)、でもすごい優柔不断で酷い奴。自分に自信が持てない。


【現在一押しジャンル】


【近状】
高校卒業。
4月から歯科衛生士の専門学校

ブログ統合終わってるのに、いい加減削除しようよ自分。


【在中ジャンル】
遊戯、復活、ギアス、APH、彩雲国、マイネ、鰤、セラムン、ギアス、名探偵、愛盾21、ぬら孫、ポケ、TOA、夏戦争


【案内】
中心…小説一覧。最上記事。
日記…徒然なるままに。感想から日々まで。
欠片…独言。オリジナル・詩など。
小話…二次創作の短文過ぎるもの。
バトン…言わずなが。
物語…二次創作のやや長めの作品。
遊戯…遊戯王の作品・作品関連など(13作品)
企画…企画。現在2万hit企画お題作成(7作)
戴物…リクエストして頂いた作品。(宝!)
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