薄紅の君

A.P.H　　(日本/桜)

朝日を背に開く様

柔らかな日差しを受け揺れる様

落ちる陽を受けながら散る様

月に照らされ白く浮かぶ様



「どの時も、彼の花が咲く様は美しいのです」
縁側で温かな風に髪を揺らしながら静かに語るその姿は、何に譬えればいいかと。

「桜前線と、花が咲く時期を国中で楽しみにしているのです」
南は早ければ1月に、最北は5月と、春の訪れがどれ程ゆっくり…しかし確実に伝わるかがわかるものである。
咲く時間は長くなくとも、場所を移ればどれ程長い間みれるものか。

「最初を言えば、桜の開花を告げる方は半世紀も前からになります」
当時は、まだ一部の場所のみでしたが…と笑う姿の後ろに舞う淡い薄紅は、流石国を現すほどの花で彼と目を疑うほどに幻想的であった。

「花の種類は、300とも600とも言われますが、どれも定かではありません」
最も有名なものが染井吉野、野生のものもあれば、僅かな違いで別の名を呼ぶものも。
毎年、花の名前が入った歌がこの時期を賑わし、何処かで必ず聴こえる。

「花が咲かなければ、国に春は訪れない…そう思うほど」
舞う花弁が湯呑に落ち、茶の上に揺れる。

「法で定められたものではない…けれど、国花の一つと言われるほど、我々には馴染みがあるのです」
もしかすると、定められた国花よりもこちらがそうだと思う人がいるかもしれません…とやや眉を下げ困りながら、その顔は喜びを消さない。
硬貨にも花が描かれ、花の香りは楽しまれる。




膨らむ蕾を見、春の訪れを心待ちにする。

咲いた花を見、春の訪れに歓喜する。

散った桜を見、また来年もと心静かに思う。








＝＝後書き＝＝
ひさかたの　光のどけき　春の日に　しづ心なく　花の散るらむ
(紀友則・古今集84)

や、北海道はまだ先なんですがね(苦笑)
毎年、2月には母の実家から送られてきて見てはいるんですが…。
日本と一緒にいるのは、誰かはそれぞれに。

散る時が来ると知りながら、花は咲き誇る。