仮面の下で啼く彼。

 
復活　　(ツナ/入江/数年後/切ない)

彼と会ったのは、本当に偶然だった。
数年前に飛んできた幼子(そう、まさしく飛んできた)を届けに行ってから、決して近づくことをしなかった家の子。
沢田綱吉に会ったのは、本当に偶然だった。

あの日の出来事は、自分にとって夢の様であって今でも部屋にある箱が夢でないという証拠の様に存在している。
あの時は自分と同じ様に頼りなさ気だったのに、数年見ない内にどこか強さが滲み出ている彼と近くの公園で出会ったのだ。
自分が公園のベンチに座っていると、彼が何故かベンチの横に座ったのだ。
逃げ様としたのに、何故か彼の様子に足が動かなかった。

何をするでもなく、彼はただただ空を見上げていた。
空は太陽が輝き、ただ青く、白い雲が漂っていただけだった。


「行きたく、ないなぁ…」


ぽつり、と彼が小さく言葉を漏らした。
自分に向けてだったのか、それとも独り言だったのか無意識たったのかすらわからない。
けれど、そう言った彼の顔は何処か泣きそうに見えた。


「どこに、ですか？」


自分に向けられた言葉かどうかすらわからないのに、何故か訊きたくなった。
あれ程関わらない様にしていたのに、自分が答えたことに驚いていた。


「遠い、遠い…場所」


彼から答えが来るなど思ってもいない自分は、今度こそ驚いた。
さっきは言葉に気を取られたが、声変わりは済んでいるはずなのに随分と耳に通る声をしている、と違うことにも意識が向いていた。


「文化も、言葉も、何もかも違う…遠い場所」

「どうして、行かなきゃ行けないんですか？」


彼と会話が続いていることに何故か喜んでいる自分がいた。
彼は自分と同じで違う存在のように見えたからだ。けれど、今会話をしている彼はさっきとは違って自分と同じ存在だと何故か思えた。


「…どうして、だろうね。最初は俺の意思じゃなかった筈なのに……」

「それなのに、行くんですか？」


彼は自分という存在を認識しているのかどうかすらわからないけれど、会話は止まらない。
握った拳が、震えているのは気のせいだろうか。そう考える位小さく揺れていた。


「うん、」

「行かなきゃ、いいじゃないですか」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


その言葉に、彼は不意を付かれた様に止まった。
どうしてだろう、誰も彼にそう言ってあげなかったのだろうか。
ゆっくりと前を見た彼の視線を追うと、遠くにだが声で彼を呼んでいると言うのがわかった。
彼はそれに答えることもせず、ゆっくりと、けれど何処か隙がない様な仕草で立ち上がって歩いていった。

彼は自分の視線に気付き、ふりかえった。




そこにいたのは、さっきまで自分の隣に座っていた人とは、まるで別人だった。





泣きそうに見えたのも、震えていた拳も、すべてすべて幻だったかの様に彼は笑顔を向けた。







　　ただただ、地面に残った
　　　　　　一粒の水跡が
　　　　　　　　　彼がいた証拠だった。





＝＝後書き＝＝
最初に彼はなんと言っただろうか。
望まないことだった、例え進む中それを望んだとしても、
何処かで望まぬ彼が嘆いていた。


イタリアに行く、直前。
正ちゃんと偶然に会い、偶然弱音を吐いていた。
彼がそうであると知っている者に、望む者にはもう決して言えぬ。

正ちゃんが、マフィアになる切欠…と思って書いた作品。
白蘭編も、書く予定。