その権利は、至福であると同時に残酷なもの

復活　(ツナ/ラル/未来/捏造/切ない)

「はぁ～いい天気だな～」

間の抜けた声は、田園の広がる道に響いた



イタリア最大のマフィア・ボンゴレファミリー
10代目ボスの肩書きを持つ青年(見た目には少年)は、一人静かな田舎を歩いていた

(やっぱ、いいよな～…のんびりできて…)

風は心地よく、昔はあれほど煩わしかった蝉やカエルの鳴き声が心地よく感じる。

(やっぱ、和食が一番だし。空気も水もおいしいよな～)

彼が歩いていると田舎に住んでいる人達が、笑顔へでスイカや野菜を勧めてくれる。
毒など入っていないそれらは、気兼ねなく食べることができる。

何時もは書類書類、時たま敵対マフィアとの抗争、書類書類三昧の彼が、何故田舎で一人でのんびりと歩いているのかというと…一言でいえば「終わらせた」
自分に課せられた仕事のみはキッチリと終わらせ、追加書類が来る前に『代理ボス(という名の生贄)』としてXANXASを預け逃亡。
今頃は黒衣のヒットマンと守護者を筆頭に、キャッバネーロボス、ヴァリアー等も含め必死に自分のことを探しているだろう。
だが、自分も伊達に10代目をやっているわけではない。逃げ切る自信がある。

(ボスになってからろくに休みなかったしな～。数年分の夏休みっと…)

そう言って、怒り慌てている彼等が眼に浮かぶが、せっかくの休暇を楽しむ為に意識の彼方に捨てていた。

(今の俺を探し出すのができるのは…あの子くらいかな…)

小さな滝壺に着いたところで、近づいていた気配に笑顔で振り向いた。

「ボンゴレ…」
「来ると思ってたよ、ラル」

そこに立っていたのは、ラル・ミルチ。
「アルコバレーノのなりそこない」と言われる濁った色のおしゃぶりを持つ者。

「あんな手紙を寄越して…来なかったり、他の者にバレたらどうするつもりだ？」
「ラルにしかわからないだろう？それに、ラルしか来なかった」
「それは…結果論でしかないだろう」
「ボンゴレ10代目の超直感…疑うの？」

顔を顰めながら言う彼女に、笑顔で近付きながらの遣り取り。
知らぬ者が見れば、険悪な雰囲気に見えるがこれは二人の何時もの遣り取り。

「…どうして、私なんだ？」
「どの意味でかな？」

いいたい事をわかっているくせに、わざと訊ねてくる、彼。
最初に会った頃からは、比べものにならない強さを得た彼。
そんな彼が、自分にのみ頼んだこと…。

「リボーンはね、俺の傍にいてくれる…コロネロやスカル、ヴェルデだって遊びに来るけど彼らも違う」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「バイパーだって、ボンゴレだけどヴァリアーだからね。独立している」
「…だから、私か…」

滝に出来た虹を見ながら、虹の子供の名を上げていく彼。
自分の色が、そこにないことは…悲しいのか、嬉しいのかわからなかった。

「お前は、ボンゴレ門外顧問の中の一人だ。何かあった時、個人の意思でもなくボンゴレの配下でもない」
「…だからって…！私に、お前を…」
「自分の力は、自分が良く知ってる。それに、可能性だよ」
「だが！ボンゴレのボスが…頼むことではないっ！」

何時も静かなラルが、泣きそうに叫んだ。
その声は、滝の音でツナにしか聞こえることはなかった。

「黄も青も紫も、緑も藍もできない」
「黄と藍は完全なボンゴレファミリーではない。青と紫、緑はボンゴレですらない」
「そう、お前は、ボンゴレだ。立場と力…出来るのは、お前だけ」

滝に出来る虹は、消えていた。
大空に映ることのできない色に、許された権利。
この権利は、残酷で悲しくて、至福のもの。


「ラル。もし俺が壊れたら、お前が俺を殺してくれ」




Fin.



＝＝後書き＝＝
実は、ラルはかなり好きなキャラ
虹のいるのか不明なもう1人が出る前に。

己が壊れたときに、己を殺すのは家族であって欲しい。
彼は、そう願いそうだ。



07年8月26日(メール下書きより)