声もなく、ただ

愛盾21　(セナ/鷹/シリアス)

「……。」

不意に、人気のない街の隅から気配がした。
自分の位置からは遠いとも近いともいえないそんな距離だったけれど。
幼い頃から、ボールを追い続けたために気配に聡い。
悪いとも思わないが、特別必要だとも思ったことはなかった。
気まぐれに足を伸ばせば、徐々に聞こえ始める声。
楽しい会話…ではないだろう。

暗く、目に付かない横道を見ればそこには所謂カツアゲの場面。
普段なら目に行くはずのないそれは、囲まれた小さな身体に動きが止まった。
無意識に足を伸ばしていた。

「…おい」
「あぁ？なんだてめぇは？」
「へー…いい男だねぇ。で、俺らに恵んでくれるの？」

小説の中のような場面。
けれど、普段アメフトという鍛えられた面々と一緒に過ごす鷹には、彼らの体格は特にいいとも思えず。
ただ、近づいたことで確認したその姿は、一瞬にして感情を奪うのに十分で。

「止めろ」
「…な、なんだよ…っ！」
「止めろ、と言ったんだ」

己よりも高い、見下ろしてくる感情のない瞳に囲んでいた男達は一歩足を引く。
喧嘩などでみる熱ではなく、そこにあるのは触ることも出来ない青い炎。
一歩踏み出せばさらに男達は後ろへと下がる。

「去れ」
「ひっ…！」

一人が逃げ出せば皮切りに全員が背を向けて、争うように細い道を逃げていく。
残されたのは、自分と囲まれていた小さな身体。
殴られただろう、その顔の怪我。
怪我がない足は、選手として必死に守ったのだろう。

「…瀬那……」

意識を失っている身体を、抱き上げる。
同じアメフト選手の筈なのに、小さいその身体。けれど、けっして軽いとはいえない筋力を感じる。
試合のときに見せるそれは、腕力ではない力を感じるもののそれ。
一瞬どうしようかと迷いながら、人目が少ない道を選ぶ。
とりあえず、怪我の手当てをしてから…そう考え、報復をと小さく頭の隅に置く。
彼のチームにいる、悪魔の司令塔と言われる人物に連絡すれば簡単だろう…と冷静に考えながら、何時もよりやや早足に、けれど意識のない彼の負担にならないように歩を進める。


その身体を抱く己の手が、僅かに震えているのを見てみぬ振りをしながら。



□■後書き□■

つ、付き合って…ます。
フルネームか名前呼びで大きく変わりますが、待ち合わせもしてないのに都合よくその場所には来ないだろう…と。
流石に例えアメフトで全国1位になっても、知らない人は知らない…というのを書きたかった。
まったく触れてないですが…その内修正するかもしれないです(苦笑い)

鷹瀬那になったのは、ひとえに趣味です。



涙に関する5題　(追憶の苑)