泣けない泣かない、泣きたくない

鰤　(ルキア/48巻派生/切ない)

扉を潜った先、開けた場所には見知った顔が多数あった。
以前の自分なら、萎縮してしまうような面子だった。けれど今はそんなこともなく。
けれど、彼らに今は顔を見せられなくて思わず俯きその場から動けなくなってしまった。

「泣いたって、いいんだぞ？」

ゆっくり近づいて声を掛けてくるのは、幼馴染。
顔を見ないでも、僅かに震えている声に自分がここにいるということで知ったのだろう。

「っ…馬鹿者！」

拳を強く握りながら、それでも顔を上げられなかった。
自分こそ、泣きたいだろうに。けれど誰も泣けはしないのだ。悲しいと思おうと。


「…あやつが…」

その言葉に、近づいてきた足音が一瞬止まったのに気づかない振りをした。
彼だけではない、その場にいた誰もが一瞬息を飲むような、空気そのものが止まるような気がした。
けれど、今は知らない振りを。誰もが知らない振りをする。

「一護が泣かないのに…私が泣けるわけ、なかろう…！」

震える瞼の下で、確かに悲しみの流れを感じた。
けれど、決してそれをだしてはいけない。
出さないと決めている。


『…みんなに、よろしく伝えといてくれ』

何時だって、どこか苦しそうで。
関わらないはずの世界が、彼を狂わせて。
それでも、涙を見せなかった。

『―じゃあな、ルキア』

別れの言葉を、口にするのは苦しいはずなのに。
それなのに、未練を残さぬように。
私が、未練を残さぬように。


『ありがとう』



感謝の言葉など、こちらが言うべきであったのに。



□■後書き□■

48巻終了後、ルキア＋αで。
あの後どうなったのかなー…みんなルキアが戻ってきた時に、一護が霊力を失ったのを知ったんじゃないかなー、と。
っていっても集まってるのは隊長格全部じゃないです。
むしろ大人組みは遠くからでもルキアの霊力感知できそうなので。

そして今後どうなってくるのか、本誌。
死神は何時出てくるのか。今後どう関わってくるのか気になって仕方ありません。


涙に関する5題　(追憶の苑)