託されたもの

遊戯　(亮/遊戯/本編沿い/過去/切ない)

※本編沿いの捏造話です。
一部子供のキャラがいますので注意。

 

「どうしたの？」

 

誰もいないと思っていた自分の後ろに、ひとつ人影が佇んでいた

 

 

デュエルに強いと言っても自分もまだ子供で、師である人物を含め多くの人に負ける。

最近は何が悪いのか、負けるのが多くて人目につかない場所に一人でいた筈だった。

黄色で高い位置にあった太陽がオレンジ色に変わって低い位置になったのにも、気づかなかったくらい落ち込んでいた自分に余計悲しくなった。

声をかけた人の顔は、太陽が背にあるから未だに見えない。

 

「どうしたの、きみ？」

 

もう一度声をかけてくる人の声は、顔が見えなくても心配しているのだとわかった。

知らない人に心配されるほどなのかと思うと、その人は自分に近づいて顔に手を近づけた。

驚いて目を閉じると、頬にはハンカチが当てられていた。

そこでやっと自分が泣いていると気づいた。

そこまで近づいて、やっとその人の顔を見ることができた。どこかで見たことがあるが、わからない。

 

「君も、デュエルをするの？」

 

自分の手に握られているカードをみて優しく微笑みながら訊ねてきた声に、首を縦に振る。

どうしてだろう、彼には言ってもいいと思ったのだ。

 

「どうして泣いていたの？」

 

三度目の問い。ゆっくりとだが、口が自然に開いた。

 

「負けたのが、悔しい…」

 

口に出すことは絶対にしなかったのに、零れ落ちるようにつぶやいた。それにつられる様に再び涙が零れ落ちた。

再びハンカチで拭った人をまっすぐ見ると、優しい…けれどどこか寂しそうな紫が見えた。

 

「デュエルは、嫌い？」

「違う、デュエルは好き…だけど」

「負けるのは、怖い？」

 

静かに、けれど真剣な眼差しに心のすべてが見透かされているかと思った。

小さく首を縦に振ると、ハンカチを持つ手とは反対の手で自分の頭を撫でた。

 

「認めているなら、君はまだ強くなるよ」

 

ただ頭を撫で、一言いっただけなのに自分の心に色が着いたようだった。

無意識に笑顔が浮がかんだのだろう。その人の顔に見た中でも一番嬉しそうな笑顔が返され顔が赤くなった気がした。

 

「これを、君に…」

 

その人はカードの中から一枚のカードを引き抜いて、自分に手渡した。

自分が持っていないカード。きっと持っている人は多いのだろう、けれどどんなレアカードを手にした時よりも心が躍っていたのに気づいたのは随分と後だった。

不意に、弟が自分を呼ぶ声が聞こえて辺りを見回す。

その人の姿を認めてから、長い時間はなしていたつもりなのに太陽の位置もさほど変わってはいなかった。

 

「今度君に会うときは、君とデュエルがしたいな」

「僕も、です」

 

言われた言葉に反射的に返せば再び嬉しそうに微笑んでくれた。

声が近くで聞こえ「翔！」と呼び返すと、返事をする弟の声を聞き届けてから、「じゃあね」と背を向けてゆっくりと自分から離れてった。

 

そして「兄さん！」と呼ぶ声に振り返り、再び歩いていった方向に目を向けると影も残ってはいなかった。

けれど、自分の手の中にあるカードが確かにある。

 

 

名前も知らない。けれど、何時か会える。

 

そう思いながら弟を引く自分の手がやけに力が込められたいのに気づいたのは、弟の痛いという言葉が言われてからであった。




＝＝後書き＝＝
華月様の絵茶にて聖様と盛り上がった「こど亮表」
本編沿いの過去話。
亮が子供です。遊戯は…高校生？決闘王になった頃。

託されたものは、カードも思いも、約束も。

遊戯があげたカードは「パワー・ボンド」
丸藤兄弟を繋げるカードで、それが遊戯から…と思った。
なんで子供なのに切ない話になるのか、自分。

08年7月6日　(絵茶ログより)